November 2003 The Japan Association of College English Teachers  No.140

[巻頭言]
一外国語としての英語
吉川 寛(中京大)
 今日の英語の流布には目を見張るものがある。世界における英語認識も「一外国語としての英語」から「『国際語』としての英語」へと急速に変化してきた。しかし、そのような状況をどう捉えるのかについては様々な視座がある。否定的見解としては、英語の量的拡大と優越的地位を「英語帝国主義」として批判する立場や、英語による単一言語支配を警戒し、むしろ「人工言語」を国際共通語にしようとする考えなどがある。逆に、英語国際化肯定論の中には、優秀な普遍語であるが故に英語の国際語化は当然の成り行きであるとする「英語普遍論」の如く傲慢不遜な立場もある。また、「国際語としての英語」という言葉を単純に「英米語の拡大」と捉える見方がある一方で、文化相対主義の視点から、英語の土着化と多様化を肯定的に受け止め、様々なアイデンティティーをもつ多様な英語変種を英米の英語をも含めて等価値にとらえようとする「国際英語論」の立場などもあり、英語の国際化肯定論の中でも現状認識とその意味付けにおいて、考え方には大きな隔たりが見られる。言語、特に今日の英語への認識に言及する際、その政治性・社会性・イデオロギー性の問題を避けて通ることはできない。英語のあり方に関する多様な議論にそれぞれの主張があるとは言え、狭量な主義主張はその論理自身に絡め取られて呪縛の状態に陥る危険性を持つ。様々な社会的課題を包含しつつも「『国際語』としての英語」を肯定的に捉え、同時に、各国の地域特性を最大限に尊重してゆく柔軟な姿勢こそが求められていると言えよう。
 では、日本の英語教育、とりわけ大学英語教育において、その教授/学習対象である「英語」をどのように捉えるべきであろうか。伝統的な日本の英語教育において、専ら英米語の語学学習と、英米語を母語とする共同体の社会・歴史・文化のみを学習対象としてきた教育姿勢の背後には、「英語とは英米の言語である」というゆるぎなき英語観が存在してきたと言えよう。しかし、現在、英語に対する新しい認識と対応が求められている。非英語母語話者が英語母語話者の数倍に達し、後者がマイノリティーと化している現状では、英語を(英語圏の)Intra-languageであると同時に、(国際語としての)Inter-languageでもあるとする教育現場での再規定・捉え直しが必要となってくる。「英米語」としての英語は「彼らの英語」に過ぎないが、「国際語」としての英語は「我々の英語」になりうる英語だという認識が教室内においても必要だ。実社会で日本人ビジネスマンが英語を使用する際、対話相手の80%が非英語母語話者であるとも言われている。上述の「国際英語論」はそのように多様化する英語の現状を肯定的に捉え、支持してゆく立場であるが、その現代的意義は大きく、英語教育現場においても国際英語論的視点からの舵取りが益々求められてくるといえるであろう。このようなコンセプトは近年かなりの市民権を得つつある。しかし、今後の問題は、現実にどのような「国際英語」をどのようにして教育してゆくかという具体的な教授法の確立である。我々に課せられた課題は大きい。
 同時に確認しておきたいのは、「一外国語」を超えて「国際英語」となった英語も、やはり依然として「一外国語」に過ぎないという事実である。外国語学習は外の世界を見る「窓」の役割を担っている。外の世界を英語という一つの「窓」から見て、それで良しとする危険と不遜を警戒しなくてはならないであろう。より多くの「窓」を持ち、より公平・平等な知見を求める視点へと常に回帰する姿勢がEFLとしての日本の英語教育の根底にも求められている。英語を特殊化、絶対化するのではなく、量的には突出しているが、数ある外国語の一つにすぎないという実に当たり前の基本認識が必要だ。他言語との相対化の視点である。英語は「一外国語」を超えた「一外国語」であるという共通認識から始めたい。

[事務局便り]
代表幹事 中野美知子
 9月に全国大会が無事終了し、10月はJACET名簿作成に全力を尽くしています。10月はテスト開発研究会が発足し、石川理事を中心に全国組織でテスト作成を開始いたします。11月2日には第一回の会合が開催されました。 また、総会でアナウンスがあったように、森住副会長の提案で、英語授業学研究会も発足されますので、皆様のご協力をお願い申し上げます。JACET本部事務所はPCとプリンターをそれぞれ1台新規入れ替えをし、ADSLを導入しました。これは見上ネットワーク担当委員のご尽力です。どうもありがとうございました。

[支部便り]
<北海道支部>
1. 研究会の開催
第1回研究会
日 時: 5月18日(土)13:00―13:45
場 所: 藤女子大
講 演: 「小学校英語のミニマム・エッセンシャルズ」
講 師: 秋山敏晴(北海道工業大), 中村香恵子(北海道工業大), 佐々木智之(北海道工業大), 三浦寛子(北海道工業大)
小・中英語教育連携の視点から小学校英語教育における学習項目の解説と教材の紹介。
2. 運営委員会の開催
第1回運営委員会
日 時: 5月18日(土)14:00―15:00
場 所: 藤女子大
全国理事会参加報告, および予算・決算, 支部大会ならびに総会の議題について審議。
3. JACET北海道支部第18回大会
日 時: 7月12日(土)12:30−17:40
場 所: 藤女子大
総 会: 前年度行事活動及び会計報告並びに監査報告。本年度行事予定及び予算の審議。支部役員の退任及び新任について承認。
研究発表1: 「明示的知識とコミュニケーション能力:文法指導の意義と位置づけに関する提案」浦野 研(北海学園大)
研究発表2: 「『JACET8000』の概要と今後の活用」(JACET北海道支部CALL研究会)
講 演: 「日本の言語教育政策を問い直す」大谷泰照(大阪大, 滋賀県立大名誉教授)
シンポジウム: 「小学校から大学までの英語教育―異文化理解をどう推進するか」
司会:横山吉樹(北海道教育大岩見沢校)/講師:末原久史(札幌日新小), 神谷信廣(北海道教育大付属札幌中), 黒岩萌実(北星女子高), 伊藤明美(藤女子大), 御手洗昭治(札幌大)
4. 今後の予定
第2回研究会
日 時: 12月8日(木)17:00−19:00
場 所: 北海道大
シンポジウム: 「外国語教育における遠隔協調学習―ブロードバンド時代の教授法変革をめざして―」
司会:西堀ゆり(北海道大)/講師:Dale Harris(スタンフォード大/北海道大客員), 永岡慶三(メディア教育開発センター), Hisayo Lipton Okano(スタンフォード大), 西永望(総合通信研究所), 岡部成玄(北海道大)
第2回運営委員会
日 時: 12月8日(木)19:10−20:10
場 所: 北海道大
河合 靖(北海道大)
 
<東北支部>
1. 7月から11月までの活動について
第42回JACET全国大会第3回実行委員会
日 時: 2003年7月5日(土)13:00−15:10
第42回JACET全国大会第4回実行委員会
日 時: 2003年8月19日(火)13:00−15:15
東北支部11月例会
日 時: 2003年11月1日(土)14:00−16:00
会 場: 福島大学教育学部人文棟2階中会議室
研究発表: (1)松原勝子(青森公立大)
"Theory of Motivation: Individual needs and group needs"
(2)板垣信哉(宮城教育大), 勝又慎吾(冨谷町立成田東小), 久保田佳克(仙台電波工専)
「英英辞書からの語彙推測の実証的研究 ― 句定義と文定義の比較検討を中心に ―」
2件の研究発表はモティベーションと語彙習得に関する実証的なリサーチ結果の報告であった。どちらの発表もそれぞれの分野の方向性を明確に示すものであり、参加者にとって有意義な例会であった。参加者は11名とやや少な目であったが、そのせいで談話会のような和やかな雰囲気となり、円卓を囲んで腰を落ち着けて発表を聞き、議論をすることができた。
2. 今後の予定
東北支部大会
日 時: 2003年12月6日(土)12:00−17:00
会 場: 秋田大学教育文化学部
日 程: 12:00−13:30 役員会  3−232会議室(3号館2階)
14:00−14:30 支部総会 3−342講義室(3号館3階)
14:30−17:00 支部大会 3−342講義室(3号館3階)
14:30〜15:40 講演:わが国の最近の外国語教育政策とその背景
       講師:小池生夫(JACET特別顧問、明海大教授)
16:00〜17:00 ディスカッション:わが国の外国語教育政策の今後の
       方向
       討論者:渡部良典(秋田大助教授)
佐々木雅子(秋田大)
 
<中部支部>
2003年度中部支部大会
日 時: 2003年6月7日(土)
場 所: 愛知大 豊橋キャンパス
大会テーマ: 「FDと大学英語教育」
特別講演: 「FD最先端の取組みー現状と課題」池田輝政(名古屋大 高等教育研究センター)
シンポジウム: 「FDと大学英語教育」
司会:山中秀三(名古屋女子大)
パネリスト:堀内宰(豊橋技術科学大), 佐藤元彦(愛知大), 宮北惠子(名城大)
研究発表・
ワークショップ: 第一室
1.「学生の intelligence を満足させる communication skills の上達を目的としたクラス」谷道和子(富山大)
2.“What a teacher of ESP can do for business students”Tomoyasu Kimura(名古屋外国語大)
3.“Radical Pedagogy in Teaching American Popular Culture”Satoshi Tsukamoto(愛知大)
第二室
1.「教育の情報化に対応した語学指導:高等学校の英語について」入江公啓(常葉学園大)
2.“The National Language Strategy for England ― Early Language Learning and Portfolio”Setsuko Hirao(愛知大)
3.「英語教育におけるメディアリテラシーの実践」原田邦彦(名古屋外国語大)
第三室
1.“A Study on Whole Language and its Implications for Elementary School English Education”Mitsuko Muraki(愛知大学院)
2.「高等学校外国語「オーラルコミュニケーション」テキストの分析:中国との比較」市川研(愛知大学院)
3.「日本人英語学習者に見られる不同意の応答ストラテジー」服部幹雄(名古屋女子大)
評議員会:
支部総会: 活動報告、活動計画、会計報告、予算案、人事、本部報告他
懇親会
第1回役員会
日時: 2003年4月12日(土)
場所: 中京大
議題: 1. 支部大会
   2. 支部紀要
   3. 2004年全国大会の会場校決定
第2回役員会
日時: 2003年5月17日(土)
場所: 愛知大
議題: 1. 支部大会
   2. 2002年度会計決算報告、2003年度予算案
   3. 支部紀要
   4. 2004年全国大会
第3回役員会
日時:2003年9月20日(土)
場所:中京大
議題:1. 第43回全国大会実行委員会の立ち上げ
   2. 第42回全国大会
第4回役員会
日時:2003年10月11日(土)
場所:南山短大
議題:1.第43回全国大会テーマ
   2.本部紀要選考委員の推薦
   3.テスト研究開発委員の推薦
   4.談話会と忘年会開催(12/13予定)
   5.ニューズレターの発行
講演会
日時:2003年10月11日(土)
場所:南山短大
講演者:松坂ヒロシ・早稲田大
演題:英語音声の姿
(原田邦彦・名古屋外国語大)

<関西支部>
I 2003年度第1回運営委員会
日時:2003年7月5日(土曜日)13時30分−15時30分
場所:立命館大学衣笠キャンパス アカデメイヤ立命21 2階K203号室
II 2003年度第1回談話会
日時:2003年7月5日(土)16時−17時30分
場所:立命館大学衣笠キャンパス アカデメイヤ立命21 1階中野記念ホール
講師:朝尾幸次郎 氏(立命館大)
演題:インターネット上の実践から学ぶ:社会・文化的視点から
III 第2回研究企画委員会
日時:2003年8月3日(日)14時から
場所:キャンパスプラザ京都 5階第1演習室
報告事項
1. 2003年度春季大会アンケート結果について
審議事項
1. 2003年度秋季大会研究発表等応募者の選考について
2. 2003年度秋季大会プログラムについて
3. 2003年度秋季大会役割分担について
4. ワークショップの応募資格について
5. その他
IV 第3回研究企画委員会
日時:2003年10月12日(日曜日)12時30分−13時20分
場所:大阪女子大学 管理棟3階 大会議室
議題
1.2004年度春季大会について
2.その他
V 関西支部秋季大会
日時:2003年10月12日
場所:大阪女子大学
1)ワークショップ:「英語学習にまつわるOPTIMISMを斬る:第二言語習得研究からの提言」 「『量』を度外視した研究と施策のもたらすもの」羽藤由美(福井県立大)、「留学に対する期待と現実」河野淳子(奈良女子大大学院)、「"バイリンガル"も楽じゃない:憧れられる側の実状」水口香(千里国際学園高等部)、「幼児英語教育への過剰期待:教員養成の現場より」伊藤紀美江(平安女学院短期大)、「小学校英語の行き着く先:OPTIMISMの危険性」尾島真奈美(京都大非常勤)
2)研究発表:「I know so. の可能性」小川知洋(関西学院大大学院)
3)研究発表:「英語のto不定詞構文、動名詞構文と動詞の関係について」高須みどり(神戸市外国語大大学院)
4)研究発表:「二重目的語構文における目的語の目的語性(Objecthood)と構文の関係について」松元豊子(神戸市外国語大大学院)
5)研究発表:「従属節における時制の一致とその例外」岩橋一樹(大阪大学大学院)
6)実践報告:「EXTENSIVE READING を通して高校生の英語のREADING に対するMOTIVATIONを高める」畠中加世子(和歌山県立和歌山東高校)
7)研究発表:「音読指導の実践と理論的考察−外国語学習での母語(カナ)表記の可能性と問題点−」真砂薫(近畿大)
8)研究発表:「『英語自己学習』に関する研究:『宿題』を視座に」高橋昌由(大阪府立箕面高校)
9)実践報告:「『持ち込み可』型テストの効用−一般英語の場合について−」山崎清水(大阪産業大非常勤)
10)研究発表:「日本語コーパスを利用した和英辞典編纂に向けて」森口稔(大阪府立大大学院))
11)研究発表:「『オーラルコミュニケーション』教科書モデル会話文の分析」釣井千恵(桃山学院大非常勤)
12)研究発表:「学習者の心理と英語の成績の相関関係について」田村学(ベルリッツ・ジャパン)
13)研究発表:「ESL, EFL University Students の為のwriting指導の考察−動機付けの観点でみるCase Study −」川部和世(関西大大学院)
14)研究発表:「成人英語学習動機−生涯学習としての英語−」沢田美保子(関西学院大大学院)
15)シンポジウム:「英語教育と英和辞書:英和辞書を巡る最近の話題」
コーディネーター:南出康世(大阪女子大)、パネリスト:「『学習者コーパス』から見たユーザーの視点」投野由紀夫(明海大)、「頻度の信憑性:コンピュータ・コーパスの数値が語るもの」橋本喜代太(大阪女子大)、「Interjectionと Discourse Marker」西川眞由美(奈良女子大大学院)、「学習者の視点から見た電子辞書の課題と『電子辞書指導』のあり方」関山健治(沖縄大)
VI 2003年度11月2日(午後2時から3時30分)講演会(予定)
場所:キャンパスプラザ京都 多目的ホール2F
講師:國弘正雄氏(英国エディンバラ大学特任客員教授)
演題:「こと」と「ことば」と「こころ」
   (東眞須美・神戸芸術工科大、時岡ゆかり・大阪産業大)

<中国・四国支部>
中国・四国支部役員会
日時:平成15年6月7日(土) 15:00−17:00
場所:山口大学教育学部第2会議室
議題:
1.第20回支部大会について
2.2002年度の事業報告並びに会計報告
3.2003年度の事業計画並びに予算案
4.2004年度の事業計画(第21回支部大会,研究会など)
5.支部役員関係
6.支部研究紀要(発行規定,執筆要領など)
7.その他(支部広報活動,HP,NEWSLETTER,メーリングリストなど)
中国・四国支部第20回支部大会
日時:平成15年6月8日(日)
場所:山口大学教育学部
大会テーマ:共通教育における英語教育改革への取り組み
[1]自由研究発表(10:00−12:30)
第1室(司会:門田幹夫・高知工科大)
1) 研究発表: "Inferring Content Word Meaning in EFL Reading Process: A Proposed Model for Studying Text-Processing Strategies of EFL Readers"  (張 旭・広島大院)
2)研究発表:「学生主導型英日翻訳講義への取組み」(柏原英則・京都外国語大)
3) 研究発表: "Gender-Specific Words Seen in English Textbooks in Japan"  (石川有香・広島国際大)
4)研究発表:「英文レポートの論理構成分析」(鳥越秀知,村上純一・詫間電波高専,岡部 一光,三宅新二・両備システムズ,三宅忠明,横田一正・岡山県立大)
5)研究発表:「総合英語学習のためのコンピュータ・ネットワーク活用−YASUDA SYSTEM 制作の背景−」(松岡博信・安田女子大)
第2室(司会:堀部秀雄・広島工業大)
1)研究発表: "Difference Between the Rules of Grammar and the Rules of Speaking"(村上博子・The Graduate School of Temple Univ.)
2)研究発表:「中学校・高校の英語教科書における依頼表現−語用論的能力育成の観点から見た表現の比較とアンケート結果からわかったこと−」(河村雅子・広島市立大院)
3)研究発表:「コミュニカティブかつ正確な英語話者の育成と英語教育の充実へ向けての取り組み:A Case Study from a Language School in England 」
(小島加奈子・高松高専)
4)研究発表:「妥当性の高い英語語彙力テストの形式について」(石川慎一郎・広島国際大)
5)研究発表:「コミュニケーション方略指導教材の必要性とその作成方法」(岩井千秋・広島市立大,小西廣司・松山大)
[2]シンポジュウム(13:40−16:00)
題目:「中国・四国地区大学における現状と課題 − TOEIC導入に関して」
司会:西田 正・広島大
パネリスト(順不同):
   折本 素・愛媛大
   前田啓朗・広島大
   筏津成一・鳥取大
   宮崎充保・山口大
中国・四国支部第20回支部大会の詳細に関しては,下記のHPを参照のこと。
homepage: http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~bld10/JACET/yamadai2003.html
                         (鳥越秀知・詫間電波高専)

<九州・沖縄支部>
 九州・沖縄支部では、10月11日、第18回九州・沖縄支部研究大会(於:大分県立芸術文化短大)が開催された。以下、当日の模様を中心として報告する。
 支部研究大会に先立ち、前日の10日(金)には、「支部紀要」編集委員会、運営委員会が行われた。編集委員会では、投稿規定の改訂に関する議論や、本年度刊行予定の「支部紀要第8号」の進捗状況の報告などが行われた。また、運営委員会では、テスト開発委員などの支部推薦委員の新任や交代、支部ニューズレター(20号記念号)の企画や編集についての討議、大会審議事項の確認などがおこなわれた。また、会議終了後、韓国のPan-Korea English Teachers Association (以下、PKETA) から本大会に派遣されたDr. Kyong-Sook Cho (Busan National U of Education, Vice-President ofPKETA)とDr. Myong-Oct Won (Jinjoo National U of Education, Editor of PKETA)とをお迎えして役員懇親会がおこなわれた。
 翌日、11日の午前中には、開会式の後に5室20件に及ぶ研究発表・ワークショップがあった。昼食後、本部から森住衛副支部長(桜美林大)を迎えて支部総会を開催し、その後、「英語教育改革の理想と現実 ?動き出した戦略構想を検討する?」と題するシンポジュウムが、開催された。コーディネータ木下正義副支部長(福岡国際大)を中心として、中学の教育現場から川尻徳講師(福岡市立舞鶴中学校長)、教育行政の立場から今泉柔剛講師(福岡県教育庁教育振興部高等教育課長)、大学教員の視点から大橋克洋講師(立命館アジア太平洋大)、実業界の立場から平野利治講師(富士通大分ソフトウェアラボラトリー授業推進部課長)がそれぞれ提言をおこなうとともに、会場からの質問に答えた。なお、このシンポジュウムには、森住副会長がコメンテーターとして参加した。
 閉会の挨拶は、次回の支部大会開催校を代表して細川博文氏(福岡女学院大)がおこなった。
 大会終了後、マイクロバスで別府に向かい、支部懇親会を催した。約80名の大会出席者のうち、約6割強の参加を得て盛会となった。
(上村俊彦・シーボルト大)

[JACET月例会報告]
ICT-Mediated Joint Class for Interactive Oral Communication
Yasuko Shiozawa (Shumei Univ) Masako Sasaki (Akita Univ)
The authors discussed the methods and significance of integrating whole-class live-videoconferencing among distant university classes into their own curriculum. The presentation, including a demonstration of Parliamentary Debate between Shumei University and Akita University, was conducted by actually linking the site (Waseda University) and Akita University, via The National Institute of Multimedia Education.
The authors argued the effectiveness of such a synchronous interaction as a means to develop both oral communication ability and attitude toward communication. The importance of pre- and post-activities supplementing reading and writing topics the class dealt with was stressed.
Another point in successful live videoconferencing was interactiveness and student-centeredness. Administrative and technical issues such as difficulty in scheduling were also discussed. Commitment on the part of teachers and staff is a prerequisite.
Above all, the stimulating and supportive classroom atmosphere that videoconferencing creates encourages the participants to communicate with each other, which is essential in EFL classes.
In addition, the faculty involved is expected to further develop their skills through participating in videoconferences.
6月月例研究会報告
発表者(所属):小西正恵・立正大
タイトル:日本人英語学習者によるパイパーテキストのための読解ストラテジー
情報化時代の語学教育において、インターネット利用の英文読解指導が注目を集めており、ウェッブを基盤とする読解活動を通じて、本物の素材に触れる機会を持つことにより、生徒の英文読解に対する動機づけが高まるとの報告がなされている(Collombet-Sankey 1997; Liou, 1997; Kasper 2000)。しかしながら、実際にホームページの英文を読む際に、学習者がどのようなストラテジーを活用しているのかを詳細に記述した研究は、これまでにあまり多くなされていない。例外的にGanderton (1999)では、フランス語を学ぶ高校生ペアがインターネット上の読解課題を遂行する際の実際の行動を分析しており、学習者向けに調整した文章ではなく、母語話者向けに書かれた文章を扱うがゆえの利点や欠点、学習者の個別性と読解課題の特質との関係を論じている。
コンピュータ画面上の文章を「ハイパーテキスト」と呼び、ハイパーテキストに画像、音声、動画要素が伴う場合には「ハイパーメディア」と呼ぶこともある。ハイパーテキストとは「電子的結び目やつながりによって互いに結びつけられた文章の塊」と定義され(Rouet et al., 1996; Snyder, 1996; Ebersole, 1997; Hunter, 1998)、「複線性」と「変更可能性」により特徴づけられる(Kaplan, 1995; Landow, 1992)。ハイパーテキストを読み進むには複数の道順が存在し、絶対的な読み始めや終わりもない。従って読み手は、何を、どのような順序で読み、どこから始めてどこで読み終わりとするかの決定に関して責任を負い、常に新しい情報を統合し、自己の理解を監視する必要がある。
ハイパーテキストの読解には、いわゆる精読以外の読み方にも着目しなければならない。Urquhart and Weir (1998)は日常生活での読解活動を、明確に定義された目標、選択性、マクロ構造といった3つのキーワードにより、注意深い読み、スキミング、スキャニング、検索読み、拾い読みの5種類に分類している。
最後に本発表者による、日本人英語学習者を対象とした、ホームページ上の英文を読む際の行動を、思考発語法を用いて分析した研究の概要を紹介したが、今回の発表ではハイパーテキストの読解に関する基礎知識の整理に重点を置いたため、研究結果の詳細については投稿中の論文を参照していただくこととした(Konishi, forthcoming)。
9月月例研究会報告
 9月の月例研究会では、講師として松畑煕一氏と田邉祐司氏を講師として迎えた。両氏は、現在英語教育関係者の間で大きな関心を集めている文部省委嘱研究の「中学校・高等学校における英語教育及び教員の研修プログラムに関する研究」に携わっておられ、松畑氏はこのプログラムのリーダーであり、田邉氏は委員である。直接このプログラムに関係している方々から「生の声」を拝聴できたのは大きな収穫であった。
田邉祐司・専修大 「英語教師の自己研修」
 田邉氏からは、これまでのご自身の英語とのかかわりの中で、どのような機会を利用して(how)、どのような英語の側面を(what)を身に付けてきたかを説明していただいた。田邉氏は高等学校で野球部の顧問として夜間遅くまで野球指導をした後の細切れの時間を利用して、ついには同時通訳の資格を取得するにいたるという、まさに真の努力家で、講演のタイトルである「英語教師の自己研修」の実践者であるといえる。発表では、ある一定の目標を定めた後、その目標を達成するためにはどのような方法を用いればよいのかという「自己研修」の具体例が数多く提示された。
松畑煕一・岡山大 「英語教員に求められる資質と研修」
 松畑氏の講演は大変「視野の広い」ものであり、英語の必要性、すなわち、なぜ (why)日本人が英語を学ぶ必要があるかという問題を提起することから始まった。松畑氏によれば、英語は互いに異なる存在である私たちをつなぎとめる手段であるという。さらに、英語を学ぶ意味は、「単なる道具としての言語」ということにあるのではなく、「ものごとを異なる視点から眺め解釈する手助けとなるものである」ことにあると説明された。次いで、「英語指導力」を構成する要素としては、まず教育者としての「教育的人間力」が挙げられ、次いで「英語」そのものにかかわる「英語運用能力」及び「英語教授力」が含まれると説明された。英語を単なるスキルとして捉えるのではなく、より広い文化的及び哲学的視野から捉えようとする松畑氏の主張は英語を学ぶ上でのモーティベーションを生徒にいかに与えることができるかを模索している日本の英語教師には大いに参考になるものであった。
(上村妙子・専修大)
10月月例研究会報告
10月の月例研究会は、JACET-SIGの1つである「クリティカル・シンキング」研究会の発表という趣旨で、同研究会のメンバーである岩坂(大見)泰子氏と林さと子氏を講師として迎えた。
岩坂(大見)泰子・帝塚山大 「米国ESLに応用されたフレイレ式批判的教育学におけるクリティカル・シンキングの定義と実践」
 岩坂氏からはまずフレイレの教育思想の骨子が紹介された。フレイレはブラジルで識字運動を起こしたが、それは対話を通して批判的意識を高め、社会を変革することにより学習者自らが自己と社会を変革・解放することを目指したものであった。また、伝達中心の「銀行(=banking)型教育」ではなく、学習者の主体性を重んじる「対話的教育」または「課題提起型教育」を強調した。こうしたフレイレの教育理念は、70年代から80年代にかけて米国の成人ESLに応用されるようになり、ウオーレンスタインやアウアバークが中心となって課題提起型教育が展開されることになった。アウアバークは当時主流であったサバイバルESLを、その教材が過度に単純化された言語材料を用い、かつ学習者の社会的文脈を無視した内容を扱っており、また教授法においても知識注入(銀行)型であるとして批判した。このようにして米国のESLに応用されたフレイレ式の批判的教育は、何らかの社会行動や社会変革が達成されることを最終目標として展開されてきている。
林さと子・津田塾大 「クリティカル・シンキングと日本語教育」
 林氏からは豊富な資料を駆使して、現在の、特に国内の、日本語教育におけるクリティカル・シンキングの意味についての解説がなされた。近年日本における在住外国人の数は増え続け、それに伴い日本語学習者も増加しかつ多様化してきた。このような社会情勢の中、公共施設や街中で増えつつある多言語表示に見られるように、日本では急速に多言語・多文化化が進んでいる。多言語・多文化社会という視点から眺めると、日本語教育には幾つかの熟考すべき課題がある。日本語教育に期待される日本語とはどのような日本語なのか、取り扱うべき日本文化ははたして伝統文化なのか、また、自己開示を要求するコミュニカティブ・アプローチには問題はないのか、といった問いに答えてゆく必要がある。共生型社会に向けて、学習者の誤りや異質性に対するトレランスの涵養が求められている。
(上村妙子・専修大)

[委員会便り]
I.基本語改訂委員会
学会報告と「JACET8000活用事例ハンドブック」原稿募集
1.学会報告
基本語改訂委員会は,第3回アジア辞書学会(8月28日,明海大学)と第42回JACET全国大会(9月6日,東北学院大学)でシンポジウムを開催した。アジア辞書学会では,海外にJACET8000をアピールすることを目的に,村田年,清水伸一,杉森直樹,望月正道,石川慎一郎が,編集方法を中心に発表を行った。フロアのRundell氏やKilgarriff氏から,データ処理について洞察深い意見を得た。全国大会では,JACET8000の検証と活用を目的に,杉森直樹,上村俊彦,望月正道,清水伸一,石川慎一郎がそれぞれの研究を発表した。この発表については,「JACET8000活用事例ハンドブック」に掲載する予定である。
2.「JACET8000活用事例ハンドブック」原稿募集
 基本語改訂委員会では,「JACET8000」をより多くの先生かたにご利用いただく指針として,「JACET8000活用事例ハンドブック」を刊行する予定です。その活用事例の原稿を募集しております。詳しくはhttp://members.at.infoseek.co.jp/jacetvoc/ をご覧ください。
●応募資格
JACET会員で,「JACET8000」を購入された方。
●原稿内容
「JACET8000」の各種活用例・授業で使用する際のtips・JACET8000と4技能指導の絡ませ方・JACET8000を使ったテスト作成・JACET8000を使ったCALL教材作成・JACET8000に対する学習者の反応・中高大でのJACET8000使用など.JACET 8000 と入試指導・JACET8000とその他の語彙表との比較・JACET8000の有効性検証など。
●原稿執筆要領
ご希望により,1ページもしくは2ページ。
●原稿締切
2003年12月31日
●提出先
基本語改訂委員会,石川@広島国際大(ishikawashin@anet.ne.jp)までメイル添付にてご応募ください。
(望月正道・麗澤大)
II.紀要委員会
紀要委員会では、学会の顔ともいえる『紀要』(JACET Bulletin)を通じて、活発な研究活動を促し、より多くの会員の幅広い分野にわたる研究成果を発表する場とするために、次のような3点の変更を提案し、総会において承認されました。
1.合否だけでなく、「条件付き合格」という新しい枠を導入することになりました。審査員のコメントをつけて返却し、改善されれば次号に掲載します。これに関しては理事会の承認のもと、すでに『紀要37号』の審査に適用しました。
2.審査項目を見直し、次のように改定しました。
(旧)
・ 独創性        Originality    
 ・ 構成         Organization
 ・ 論理の明快さ    Clarity
 ・ 印象点(総合評価)  Impressionistic Scoring
 (新)  ・ 独創性 Originality
・ 構成・論理性 Organization・clarity
・ 研究の水準 Research level
・ 総合評価      Holistic evaluation
旧基準の「構成」と「論理の明解さ」は区別が難しかったことからひとつにし、新しく「研究の水準」という項目を設けました。広範な英語教育、応用言語学の諸分野において、分野による違いがあるため、それぞれの基準で審査しようというものです。また、「総合評価」は、「5=是非掲載したい、4=できたら掲載したい、3=掲載することに異論はない、2=できたら掲載したくない、1=掲載したくない」といった具体的基準で審査をお願いすることにしました。
3.日本語論文も掲載することになりました。発表言語による制約を緩和し、日本の英語教育の問題など幅広い話題を論じていただくため、日本語も認めることになりました。これは昔に逆戻りしたのではなく、もはや海外に追いつき追い越せの時代は過ぎ、学会の新しい発展段階を象徴するものとしての変更です。日本語論文は『JACET紀要39号』から掲載する予定です。日本語論文執筆要項は以下のようになりますので、ご留意ください。
日本語論文執筆要項
 1.字体は明朝体
 2.A4版横書き 横39字、縦26行で合計20枚以内
 3.英文300語以内の abstract を添える。
 4.タイトルは、和文と英文を併記する。
 5.その他の条件(提出要領、参考文献など)は英文の場合に準じる。
以上のような趣旨で変更が認められましたのでお知らせ致します。今後ともどうぞふるって御投稿ください。
紀要委員会委員長 高橋貞雄・玉川大
担当理事 岡 秀夫・東京大

[その他]
ESP 研究会(本部)では下記の通り特別セミナーを企画しています。
テーマ:“ESP Seminar: English Education for Health Care Professionals”
日時:2004年1月10日(土)12:30−16:30
場所:聖路加看護大学 302号室
発表者と発表演題:
1.Thomas Orr ・会津大 “What is an ESP Professional?”
2.John Skelton ・Univ. of Birmingham “Teaching Medical Research Articles”
3.Yoko Watanabe ・群馬県立医療短大& Yoko Gokan・岐阜大 “ English for Nursing: Nursing Researchers in Japan & UK”
5. Eiko Kawagoe・神戸市看護大, “English Education in Medical and Nursing Schools in Japan - Results from a Nationwide Questionnaire Survey”
6. Judy Noguchi・武庫川女子大“English for Pharmaceutical Sciences: Encountering Web Resources”

連絡先:渡邉 容子・群馬県立医療短大(027-235-9470直通)watanaby@gchs.ac.jp
 園城寺康子・聖路加看護大  (03-5550-2278直通)yasuko-onjoji@slcn.ac.jp


2003年11月15日発行
発行者:大学英語教育学会(JACET)
代表者:田辺 洋二
発行所:〒162-0831
 東京都新宿区横寺町55
   電話 03-3268-9686
  FAX 03-3268-9695
  http://www.jacet.org/
編 集:JACET広報通信委員会