大学英語教育学会     
 
Last updated on September 13, 2005
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Third International Annual Conference of IATEFL China
Tonghua, China 5-9 August 2005 に参加して
報告者:笹島茂(埼玉医科大学)
  IATEFL China と聞いても馴染みのない人がほとんどだと思う。事実、今回の日本人参加者は私一人だったようだ。大会中どなたとも日本語で話すことはなかった。そこで、まずこの大会について紹介し、次に大会の概要を述べ、拙による発表2件の内容に簡単に触れて、報告としたい。来年はぜひより多くの方が関心を持ち、参加していただくよう願う次第である。

1.IATEFL China の大会について
  第1回の大会(2002年8月)は、3年前の夏に行われた。実は、私はこのときに初めて参加した。というわけで、今回は2度目の参加となる。当初は、大会の名称を TEFL China としていたので、HPアドレスも http://www.tefl-china.net/ となっている。第2回大会はSARSの影響で開催が半年ずれて、2004年5月に行われ、名称が IATEFL China と変わった。大会の実質的主催団体は、ECP(English Coaching Paper)という出版社である。参加者のほとんどが中国の大学、高校、中学、小学校の英語教員である。海外からはIATEFLを中心に各国から招待され、発表者として参加している。海外からの一般の参加はほとんどないようであるが、中国で英語教育に携わっている外国人が同様に招待されている。それでも、発表はすべて英語で行われることが原則となっているので、そのあたりは徹底している。
  IATEFL China の包天仁(Bao Tianren)会長は、ECP の社長であり、通化師範学院の学長でもある。英語教育に対して自ら独創的なアイディアを持ち、推進する実践の人だ。大会が開催された吉林省通化(Tonghua)は、瀋陽(Shenyang)から4〜5時間バスで行った所である。北朝鮮に近く、朝鮮族も多く住む小さな町である。ここで開催される大きな理由は、ECP の本社がここにあるということで、その本社のホテルで大会が行われたという次第である。ECP は、英語教育に関する新聞を発行し、様々な英語教材を発行している会社で、中国における英語教育を支援している。スタッフも 4,000人を超える人数という成長著しい会社だ。
  大会の背景は以上の通りである。今回の一般参加者(中国で英語教育に携わる人)は約400人だったそうである。大会期間は公式的には8月5日〜9日とされていたが、実質的には、6〜8日の3日間だった。この日程については到着するまで正確には分からなかったが、中国の強大な国土からすると移動を含めれば、一理あるのであろう。というわけで大会が始まった。

2.大会の概要
  初日は朝8時30分から通化ホテルで始まった。通化市長、教育部、IATEFL代表などのスピーチがあり、写真撮影の後、包天仁(Bao Tianren)会長の講演があった。タイトルは、‘New Trends and Prospects of TEFL in China’で、大会のテーマである‘Learning Adapting Communicating Creating’と関係した話で、彼の主張する「四位一体(Four-in-One Teaching Approach)」の必要性を述べたものである。中国は中国に適した英語教育を実践すべきだという趣旨の内容で、迫力があった。その後はいくつかのセッションに分かれ、様々な発表が行われた。発表総数は70件ほどであった。招待講演は、香港、イスラエル、英国、台湾、ポーランド、キューバ、カナダ、アイスランド、ハンガリー、日本、スリランカ、ドイツ、ロシア、オーストラリア、合衆国などの国の発表者から行われた。もちろん、すべてを聞くことは不可能であり、個人的な興味から、中国の英語教育事情を知りたいと考え、中国国内の発表を中心に参観したので、これらの講演の内容については報告できないが、アブストラクを見ると実践的な内容が多いように見受けた。
  印象に残った発表をいくつか紹介しよう。一つは、Lu Zhongshe 氏(Tsinghua University)の‘A Comparative Study of Some Chosen Coursebooks’というタイトルの発表だ。教師中心で教科書中心である授業の伝統を背景に、中国の英語教科書がプロセスやアクティビティ重視の内容に向かいつつあるという教科書比較研究は示唆に富むものだった。また、Liu Yuxiang氏(Education Bureau of Binzhou City)の‘Strategies for a Successful English Teacher by an Example of Teaching Spoken English in High Schools’は、中国の英語教員に対する実践的な教え方に関する発表で、中国の英語教育の一端が垣間見られた。Li Li 氏(Southwest Universit)の発表‘FL Curriculum Theory: Scopes and Issues for Investigation’は、中国での現在の英語教育の実用面にのみ焦点を当てたカリキュラムに対する批判である。印象的な講演は、Zhang Lianzhong 氏(China National Institute for Educational Research)の‘China’s English Education Reform for the 21st Century and Teacher Qualification Campaign’だった。ユーモアに富んだスピーチであるが、教員はきちんとした知識と技能を身につけ、その専門性を評価するシステムを開発すべきと提案した点は、日本にも共通する課題と認識した。総じて、研究のための研究ではなく、実践に対する視点を重視する内容が多く、個人的には興味を持って参加できた。しかし、実証的なデータに基づく研究が少なかったのは反面残念だった。

3.自身の発表に関して
  二つ発表をした。一つは‘Collaborative EFL Teacher Training in East Asia’であり、東アジアでの英語教員研修の共同を、これまでの調査を基盤として提案した。100人ほどの聴衆を得て、反応もよく、同じ考えを持つ人が多いと感じた。反面、「台湾は国ではない」と反論された点には共同の難しさも感じた。もう一つは‘Some Aspects of Teaching English in Japan’というタイトルで、最近の日本の英語教育の動きを歴史とともに紹介した。こちらは20人ほどの聴衆だった。日本の英語教育についてはそれほどの関心はないのかもしれないと感じた。3日間で二つの発表は正直きつかったが、日本からの参加者が一人であり、主催者からの依頼であったので、可能なかぎり努力した。最初の発表に関しては、発表後にある新聞社の記者の方からインタビューの依頼があった。このような反応を見ると中国でも言語教育における東アジアの連携に関心を持っているのだと改めて感じた。数年間主張し続けている言語教育におけるアジアの連携、特に、教員の連携についての自分の考えに関して多少背中を押された気がした。

4.おわりに
  吉林省通化市は交通の便が悪い。大会自体も国際大会という割には国外からの参加者が少なく、特に、韓国、台湾、北朝鮮などの近隣諸国の参加者がほとんどいなかった点は残念だったが、IATEFL としてはその趣旨を生かしている。2006年は10月22日から25日まで北京で開かれる予定である。北京での主催となれば、多くの参加者を得て、より盛大になるだろう。ぜひ、日本の小中高の英語教育に携わる方も参加できるとよいと思っている。そのために、今後もこの大会のことは多くの人に広報していきたい。それは、私自身の発表の続きでもあるからだ。

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